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塔を見上げて

表現の幅をさらに拡げることができればと、絵を描き始めたのです。
FEATURE
HIRAKI SAWA / さわひらき

表現の幅をさらに
拡げることができればと、
絵を描き始めたのです。

UPDATE 2020.10.19
COLLABORATOR INTERVIEW
TEXT : YOSHITAKA KURODA (ON READING)
10代でイギリスに留学し、
現在もロンドンを拠点に活躍中のアーティスト、さわひらき。
映像・立体・平面作品などで構成されたインスタレーションは、
ユニークでどこか懐かしさも感じさせる。
そんな彼に、これまでのこと、今回展示した作品のことをインタビューした。

― さわさんというと、映像のイメージがありますが、美大では彫刻を専攻していたのですね。

さわ : そうですね、彫刻科にいたのですが、例えば木彫とか鋳造とかをやっていたわけではなくて、モノを重ねたり合わせたり、ブリコラージュして立体作品を作っていました。

― なるほど。さわさんの映像作品にはコラージュの手法を使ったものが多くみられますが、身の回りのものを素材として使うという点で共通しているのですね。イギリスの美大はどんな感じでした?

さわ : 通っていた学校は自由な学風というか教育方針なので、彫刻科で絵を描いても、ビデオを作ってもテキスタイルをやっていてもよい学校、よい教育なんです。自分が興味のあることを伸ばそうとする先生たちが教えているので、彫刻科だからこれをしなさいっていう強制はあまりなかったですね。だから、こういうことをしたら面白いだろうなっていうことを自発的に選んでやっていました。8㎜で撮った映像と立体作品を組み合わせてみたり。今やっていることと、そんなに変わっていないですね。その後、大学院に進んで、より深く映像作品に取り組むようになりました。その頃から、普段の生活の中で気になった、事象、現象や、構造などの中で特に面白く感じたことを作品にしています。思ったことを吸収し、ゆっくり発酵させていくイメージですね。

― さわさんの作品を観たときに、ノスタルジーみたいなものを感じるし、ロマンティックな要素もあると思うんですけど、ファンタジーとはまた違って、あくまで日常と地続きで、ちょっとシュールレアリスムに近いという印象を受けました。


さわ : そうですね、一番簡潔に述べるならシュールなんですが、特に影響を受けて作っているという意識はなかったんです。「ひらきの作品はシュールレアリスムの影響を受けているよね」って言われて、客観的な意見を聞いてそういう部分もあるのかなと思い、改めて深堀りして勉強したことはあります。でもそういうことはよくあって。ここ数年、写真関連の企画展によく呼ばれるのですが、写真との共通性を指摘されたり、いろいろな人が多様な意見を言ってくれて、それで客観的に自分の作品を見直すよいきっかけを得ています。だからますます面白いというか。最近は、キュレーターの友人に「さわ君は、自分のことを彫刻家って言っているけれど、絵描きだと思う。だから今後は、自分のことを絵描きだって言った方がいいよ。その方が誤解が少ない。」って言われて。確かに、僕はマテリアルではなく構図、コンポジションで作品を構成するんです。彫刻っていうのは、単純なところで、物体であり、ボリュームを持ったマテリアルで、それと、空間との関係を考えると思うんです。でも、僕の場合は映像や絵画と同じように、立体作品を配置するときの空間構成もコンポジションを考えている。これまでずっと自分の自己紹介を「彫刻家です、でもビデオ作ってます」って言ってたけど、これからは「絵描きかもしれません」って言っていこうと思ったんです。

― 面白い捉え方ですね。今回ははじめてペインティングの作品も展示されるとか。どんどん新しいことに挑戦してますよね。

さわ : 大学院に入ったときに僕についてくれた教授が彫刻家のフィリダ・バーロウという方で、素晴らしいアーティストなんですけど、その人がある日、「アーティストっていうのはね」って答えを教えてくれたんですよ。「こうやって映像をつくって、彫刻もつくって、絵も描いて、こうやっていろんなことをやるのがアーティストなの。それらの線が交わるところがどんどん濃くなっていく。それがアーティストで、あなた自身なの。いろいろな表現を求めていって見えてくるものっていうのが必ずあるから、作品を作り続けなさい。」って言ってくれて。 その言葉は今でもよく思い出しています。

今回レストランに展示することになったのですが、そこでも立体と映像とペインティング作品を展示しました。自分らしさが出せたと思います。

― 今回このテレビ塔も、生まれ変わってリスタート、新しい挑戦っていうところもあると思うんですけど、ここで初めて絵を描くっていうのも良いですよね。


さわ : そうですね、なんかね、今は、どうにかすれば映像は作れちゃうんですよ。お題を与えられたらできちゃうし。さらに手癖でやり始めると、作っていく面白さがなくなってしまう。でも絵はそうはいかないっていう。このホテルのテーマである「RE ORIGIN」、表現ということの原点に立ち返ろうと絵を描き始めたわけです。初めてのことなので、なかなか最初は思うように身体が動かなかったり苦労しましたが。絵を描くといっても、やはりこれまで自分が作ってきた作品の延長線上にあるんです。ちょっとはみ出ていたり、浮き出ていたり、コラージュされていたり。レストランに展示した絵には蓄光塗料が塗ってあって、暗くなると光るんです。強烈に。要はそこに時間の変化が含まれていて、映像的なんですよね。僕が最初に映像に惹かれた理由は時間があるということなんです。変化することだったり。これからは絵でもいろいろと試していきたいですね。

TEXT : YOSHITAKA KURODA (ON READING)

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