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塔を見上げて

「常に美しいものを生み出し続けたい」、この気持ちに終わりはないですね。
FEATURE
YUSUKE INAGUMA (INAGUMA KAGU) / 稲熊 祐典 (稲熊家具製作所)

「常に美しいものを生み出し続けたい」、
この気持ちに終わりはないですね。

UPDATE 2020.11.19
COLLABORATOR INTERVIEW
TEXT : AI FUJITA(futatema)
研ぎ澄まされた感性から生み出される、洗練された作品たち。
その魅力に魅せられる者は東海地方の枠を越え、全国各地に広がっている。
そんな熱く注目を集める家具職人・稲熊祐典に、
今回の作品に込めた想い、家具の哲学、そしてこれからの活動について話を伺った。

― 今回THE TOWER HOTELのために3種類の作品を作られたとか。どんな風に制作されたんですか?

稲熊 : 宿泊部屋に置くテーブルランプ、壁にかけるオーナメント、ホテルの入り口に置くカウンターの3つを作りました。テーブルランプとオーナメントは木材を見た瞬間のインスピレーションに従って、カウンターは設計を事前に考えた上で制作しています。
テーブルランプはとにかく、「木目が美しく見えること」にこだわりました。一つひとつの木材と向き合って、ひたすら感じるままに削るんです。それから、木材の色に合わせてシェードの生地選びをしました。例えば白っぽい木材なら、ベージュじゃなくて麻の布地が合うな、って具合に。僕にとって主役は常に木材なので、「どうしたらこの木材が美しく見えるか」をいつも意識していますね。

― 「木材が主役」、作品から伝わってきます。オーナメントの木材は特に、個性が強いですね。

稲熊 : 「壁にかける物をお願いしたい」というオーダーをいただいてすぐ、いつも行く材木屋さんに行ったんです。そこで出会った木材を見て、「これだ」と思いました。
いつもあまりコンセプトを考えないんですが、今回はただ美しいだけでなく、意味のある作品にしたいと思って、オーナメントだけテーマを決めました。月の満ち欠けや新月と満月を意味する、「朔望」です。円形の額縁と出会った木材で、年月を経て欠けていく月の満ち欠けや、太陽と月を表現しました。
これは5年前の自分だったら辿り着けなかった、今の自分だからこそできた作品だと思っています。これ以上ないものができた、って自負がありますね。

― 稲熊さんの感性って、すごく独特ですよね。感性を磨くために、どんなことを心がけていますか?

稲熊 : 頻繁に材木屋さんに足を運ぶことですね。とにかくたくさんの木を見て、触れる。その繰り返しで、「どんな木が良いか」が直感で選べるようになってくるんです。
直感的に良い!と思う木に出会うと、使う予定はなくても、ついつい買っちゃいますね(笑)個人的には、楓の木が質感も良く美しいのでよく使用してます。木からインスピレーションをもらうことが圧倒的に多いので、新しい木に出会っては、どんな形にしようかと、いつも想像を膨らませています。

― 日々の積み重ねですね。そもそも家具に興味を持ったきっかけは何でしたか?

稲熊 : 大学で授業があって、陶芸やジュエリーなどの専門集中講義のひとつに木工があったんです。それまでは漠然と「建築関係に進めたらいいな」くらいに考えていたんですが、この授業がきっかけで家具作りにハマりましたね。考えたものが手を動かすことで形になっていく面白さと、素材が一つずつ違うから、同じものを作っても全然違うものが出来上がる面白さがあって。これを突き詰めたい、と強く思いました。そこから高山の学校で1年間学び、家具屋で3年間働いたあとに独立しました。

― 若くして独立されてらっしゃいますね。大変だったことや、苦労したことは?

稲熊 : 上手くいかないことはもちろんありましたが、常にやったことがないことにチャレンジしてきたので、それを苦労だと感じたことはないですね。僕の扱っている商品は、スタンダードな定番商品がほとんどなくて。「これは他の家具屋さんでも作れるな」と思われるものは絶対にやりたくなかったんです。だからいつも、できないことを最低一つクリアするのがマイルールになっています。お客さんから聞かれたら、たとえ経験のないことでも、必ず「やれます!」って答えてますね(笑)そうやって自分を追い込んで、常に自分をアップデートしています。

― 感性だけでなく、努力を積み重ねられたんですね。稲熊さんに強い影響を与えた出来事や人物はいますか?

稲熊 : 今回もお世話になった、材木屋さんとの出会いですね。実は最初の3年間は、ずっとシンプルな家具を作っていて。でも材木屋さんに出会って、木に対する考えがガラリと変わりました。「こんな木があるぞ」「これをあげるから使ってみなよ」ってどんどん提案してくれて、自分の感性を引き上げてくれたんです。
そこから周りに評価していただける機会も圧倒的に増えましたね。作品に名前が書かれていなくても、「稲熊さんのですよね」と言っていただいたり。材木屋さんあっての、稲熊家具製作所だと思います。

― 全国的に活躍されてらっしゃいますが、あえてこの土地で活動する理由は何でしょう?

稲熊 : 純粋に、生まれ育った土地だからですね。高山で修行をしていた時も、独立するなら愛知に戻ろうって決めていました。あとこれは独立してから気づいたんですが、名古屋って実は、材木屋さんが多いんです。全国の良い木が集まってきているので、その点でも家具屋にとっては良い土地だなって思います。全国から問合せをいただくことは増えているので、この調子で日本の真ん中から全国へ、もっともっと良い作品を届けていきたいです。

― 今後はどんな活動をしていく予定ですか?

稲熊 : シンプルに、自分が美しいと思えるものを作り続けていきたいです。僕にとって家具って「日常」なんですよ。ずっと考えていられるし、飽きない特別な存在。僕が生きている限り家具作りに終わりはないので、常に新しく美しいものを追求していきたいですね。
具体的にやってみたいことは、日常では使用しない家具を作ること。僕、映画がすごく好きで。映画のワンシーンに登場するような、空間を彩る家具が作れたら面白いなって思います。そう言う意味では、今回の作品作りも近かったなって思います。非日常の「特別な空間」の演出を、これからは楽しんでいきたいですね。

TEXT : AI FUJITA(futatema)

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