名古屋って調和の無さが
凄いですよね(笑)でも、
そこが名古屋のいいとこなんですよ。
手掛けたのは、近年、数々の国際展にも日本を代表するアーティストとして選ばれるなど、
国内外で注目を集めるアーティスト、杉戸洋。
そんな彼に少年時代のことや、名古屋での暮らし、作品制作に対する想いなどをうかがった。
― 少年時代はニューヨークで暮らしていたとか。その頃からアーティストになりたいという漠然とした思いなどはあったのでしょうか?
杉戸 : その頃は特にアーティストになりたいとかは意識していなかったですね。
親の仕事の関係で、子どもの頃はニューヨークに住んでいて、高校受験の時に名古屋に戻ってきて、高校も帰国子女が通う国際高校に通っていました。なので当時は日本語が不得手で。大学受験のときも、なかなか日本語が大変で勉強したくなかったから、美術ならちょっと楽できるぞと思い、芸大に進学しました。もちろん、もともと絵を描くことが好きだったことも大きいのですが。
― へぇ~、そうだったんですね(笑)
アメリカで暮らしていたことって、作品制作に影響していますか?
杉戸 : 生まれて3歳くらいから10歳くらいまでに、特に色彩感覚とかが身につくと思うので、なので意識はしていないですけど、もちろん何らかの影響はあるかなと思います。例えば、日本の小学生だと太陽を赤く塗ることが多いと思うんですが、アメリカだと黄色く描く子が多かったり。そういう感覚的な部分は無意識のうちに入りこんでいるかもしれません。
― 日本に戻ってきてからは、制作の拠点はずっと名古屋なんですか?
杉戸 : 若い頃は自由気ままにあちこち行ったりしましたが、ある時にこっちにアトリエを建てちゃったんで、それからは名古屋を拠点にしていますね。今は東京芸大で教えたりもしているので、名古屋と東京と半々くらいです。名古屋はいいところだけど、夏の暑さと湿気だけ厳しくて、8月だけ勘弁してくださいっていう感じですね(笑)
それ以外は住みやすくて好きなんですけど。
― 杉戸さんの近年の展覧会などを拝見していると、より空間全体へのアプローチが強まっていますよね。その場に足を踏み入れた時、ときめきというか安堵感のようなものを感じます。そこで改めて、あ、これが「調和」している状態なんだと思いました。
杉戸 : 絵画にして彫刻にしても、もちろん調和というのは常に意識しています。
ただ、僕の絵の中身は非常にシンプルで、ある意味、「弱い」んですよ。それで、その絵を「弱い」ままどうやって成立させるかと考えたときに、周りに配置する作品との関係性であったり、空間全体を調和させることを意識するようになったんですね。それで、建築家の青木淳さんと一緒に制作したりとか、そういう試みをしてみました。
― なるほど~!最近特に、どうすれば弱さやヴァルネラビリティーを抱えたまま生きていけるのか、ということを考えていたのですが、杉戸さんの作品のある種のナイーブさの表現に心惹かれた理由が少しわかった気がします。普段、暮らしている中で「調和」というものを意識したりしますか?
杉戸 : 名古屋って街を歩いてみても、調和の無さが凄いですよね(笑)でも、そこが名古屋のいいところなんですよ。例えば、イタリアなんかのまさに調和のとれた美しい街で暮らしていたら、違っていたかも。名古屋の街を歩いていると、いろいろ気になっちゃうんですよね。あ~、ここ10㎝右だったらとか、もうちょっとこうしたらな~とか。もしかしたら普段の生活の中で、そういう見方が鍛えられているかもしれないですね。
― 今回制作した作品について教えてください。
杉戸 : ニューヨークから帰ってきて、親戚たちが名古屋を案内してくれたんですね。テレビ塔も上って、三越行って、中日ビルの回転レストランに行って。そういうのは凄い記憶に残ってて。でも中日ビルも立て直しされちゃうし、当時とはだいぶ風景が変わってしまいました。それは少し寂しくも感じます。中日ビルの天井画もそうですが、名古屋にはテレビ塔が建てられた50年代頃に、モザイクタイルの壁画も多く作られていて。それでホテルのフロントに飾る絵はモザイクタイルで作ることにしました。テレビ塔から見た今の風景と、今はもう無くなってしまった風景を合わせて描いた作品です。
客室にあるのは、ペインティングの作品ですが、意識としてはテレビ塔が出来た頃の50年代の雰囲気を出したいというがあって、額縁もその当時の頃の古いものを使いました。中の絵は、フルーツバスケットの絵ですね。歓迎的な意味も込めて。ちょうどお部屋の南側の窓から、セントラルパークの噴水が見えるんですが、最初はそれを描こうかという案もありました。でもそのまま描くのもな、というのもあって、噴水を想起させるようなバスケットの絵になりました。部屋のソファの色味との相性もばっちりなので、居心地の良いお部屋になったかなと思います。