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塔を見上げて

自分が思うリアルな人間を表現したい。
FEATURE
SHIN MORIKITA / 森北 伸

自分が思う
リアルな人間を表現したい。

UPDATE 2020.10.01
COLLABORATOR INTERVIEW
TEXT : YOSHITAKA KURODA (ON READING)
ホテルのシグネチャールームに招かれ最初に目に入るのは、
塔をモチーフにしたユニークな彫刻作品。
制作したのは、柔らかなユーモアと心地よい緊張感を内包した、
シンプルで素朴な彫刻や絵画作品を発表してきた森北伸。
そんな彼に、作品制作に対する想いなどをインタビューした。

― 美術の世界に足を踏み入れるようになったきっかけなどはありましたか?


森北 : 元々小さいころから絵が好きだったのですが、高校生2年生の時に同級生が通っていた美術研究所に誘ってくれて。それで遊びに行ってみたら、学生や先生が面白い人が多かったので、通うことになりました。それまでは高校卒業したら就職するとばっかり思ってたのですが、そこで初めて美大という存在を知って、なんとなく惰性で美大に入りましたね(笑)。ただ今思えば、なんとなく自由に生きていきたいという思いが高校生の頃からずっとあって、それに最も近いことが芸術家を目指すことだったんだと思います

― 以前拝見した森北さんの略歴の中に、「高校生の頃にパンクに出会って、生き方が変わった」と書かれていたのを思い出しました。


森北 : そんな大袈裟なものでは無いですけど、若い頃から非社会的な部分が自分の中にあって。そんなところがパンクロックに対して共感したんだと思います。あんなふうに生きてって良いんだみたいな。世間的に劣等生でも反感買っても、シンプルに強く生きていく感じとか。たとえそれが騙されていたとしても、騙されてもいいじゃん、だって音かっこいいんだもんと思えるんです。僕が絵とか彫刻とか美術とかとずっと付き合ってこれたっていうのは、スポーツみたいに順位がないじゃないですか。良い悪いもないっていうか。そういう世界だっていうのはやっぱり自分が続けてこれた理由のひとつかなと思います。

― 森北さんの作品の特徴としては、絵画と彫刻のふたつの軸があって、絵画が彫刻的な一面を持っていたりだとか、逆に彫刻の方も絵画的な印象を持っていたり。そういうところが面白いなと思うのですが、彫刻と絵画という二つの方法論を森北さんはどのように捉えているのですか?

森北 : 例えば、美術をやるときに美術のことばかり見ていてもダメだと思うんです。美術をやるんだったら、他のことをもっと知ったり体験したほうが良いと思うんです。美術の中でもまたいろんなカテゴライズがあるから、例えば、彫刻をしっかりやりたいのであれば絵もやったほうがいいとか。そういう相互関係っていうのはあるかもしれないですね。あと、彫刻は僕にとってはリアリティが強いんですよ。「モノ」なので。対して絵画はイメージの世界。例えば、空を飛ぶ人を絵では描くことができるけど、実際に空を飛ぶ人を彫刻で作ることはできないんです。飛んでるような彫刻はできてもね。そのように絵画でできることと彫刻でできることは違うんですが、僕は、彫刻がやりたいわけでも絵画がやりたいわけでもないんです。あくまでもその先のやりたいこと、表現したいことにあわせて、こういうことは絵画でやった方がいい、とか彫刻でやった方がいい、ということを考えていますね。

― なるほど。森北さんの作品には、「人」をモチーフにしたものが多いですがなぜですか?

森北 : いろんな理由があるけどひとつ言えるのは、単純に人のことばっかり考えているから、ってことかな。生活していくうえで、例えば家族のこととか友達のこととか、社会のこととか。社会って、社会そのものを考えるんじゃなくて、人の営みを考えるってことだから。例えば国を考えるでもいいし、文化でもいいけど、その対象は全部、人につながってると思うから。だから自分が人を描いたり作ったりするのは自然なことなのかなって思っています。
あと、自分自身が気をつけていることでいえば、例えば社会とか家族とか他者について考え感じることも、それはあくまでも自分というフィルターを通しているんだということ。なので、自分の作品についていえば、あまり意識しているわけではないけど、自画像に近いんだろうなって思ったりもする。そういうテーマでやってるわけではないんだけど。

― 森北さんの作品は、余白も特徴的ですよね。絵画はもちろん、彫刻で余白というのも変な話かもしれませんが、空間に置かれたときに、広がりというか余白を感じるんです。

森北 : 自分は、クローゼットとか引き出しとか半分空けておかなきゃ気がすまないんですよ。パンパンに入れない(笑)。僕は、何かあったときにはいつでもそこにものが入れられる余裕とか、ものがきれいに置いてあるのを楽しく思うそういう癖があって。表現って足し算になりがちなんだけど、基本僕は引き算が好きなんだと思う。余白があると安心するし、クリエイティブな気持ちになれるんだよね。

― このお部屋も気持ちの良い空間になってますよね。森北さんは名古屋のご出身ですよね。名古屋で暮らしてきたことが、作品に影響を与えてきたことがあると思いますか?

森北 : やっぱり影響ありますよ。僕の地元の今池は、雑多な下町なんですよね。18歳までずっと住んでたんですけど、僕の小さいころは、周りにはアウトローな人たちばっかりだったんですよ(笑)。だから、人間のある種の本質みたいなものを見て育ったように思ってて、だから人間ってそんなもんでしょ、みたいな考え方なんですよ僕。美術って彫刻も絵画も宗教画から始まっているじゃないですか。神様を表現したり。だから、どこから見ても完璧な形をつくるという考え方で成り立っていたんです。でも、人間ってそうじゃないでしょって。あるとこから見たらすごくかっこいいけど、あるとこから見たらすごいおかしいじゃんみたいな。僕が、観る角度によって人間の形に見えたり、ぺらぺらに見えたりする作品を作っているのは、自分が思うリアルな人間を表現したいっていうのがあるからだと思う。

TEXT : YOSHITAKA KURODA (ON READING)

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